

私の経営する「やなもり農園」のモットーは、一度うちの野菜を食べた人が「また食べたい!」と素直に思う野菜づくり。通常の農家はひとつの農地で年間8~9作ほど作物をつくられますが、うちでは夏野菜と秋冬野菜、たった2作しかつくりません。大量生産のためにあれこれ植えて回転率を上げると、土の肥料バランスが崩れて、おいしい野菜ができなくなるからです。では、農地が空いている時期は何をしているのか?というと、「土づくり」をしています。
土の肥料の要素には、窒素・リン酸・カリウムがあります。このバランスが土づくりの良し悪しを大きく左右する。例えば、窒素を増やすと、成長が早く見栄えのよい野菜になるものの、とても生では食べられない苦みの強い味になるんですね。だから、うちでは窒素を抑え、ゆっくりと成長させるんです。さらにリン酸・カリウムを多くすることで、甘みの強いおいしい野菜ができます。「今まで食べてきた野菜って、何やったんやろう?」・・・、たっぷり3ヶ月もかける土づくりの成果として、うちの野菜を食べた多くの人が口にする言葉です。
うちの農法は業界では「梁守農法」と呼ばれていますが、実は、先代の頃とは180度違うんですよ。私が農業をはじめた頃、既存のやり方に大きな矛盾を感じるようになり、農業大学で勉強して自分なりの農法を模索し続けました。最初は、市場に求められる「安心・安全・きれい」な野菜づくりを研究していましたが、そこに「本当においしい」の要素を加えて突き詰めた結果、いまがあります。そう、不思議だと思いませんか?市場で求められているのは「きれい」=「おいしそう」であって、実は、本当のおいしさが二の次になっているなんて。
野菜のおいしさの要素とは、第一に「甘み」が豊かであること。次に、子どもでも食べられるくらい「苦み」を抑える。さらに、野菜に応じて「酸味」をコントロールします。例えば、トマトでも酸っぱいのが好きな人がいれば、甘いのが好きな人もいますからね。これらの味を決定づけるのは、何よりも土づくりです。生でもバリバリ食べられる小松菜、梨のようにフルーティな大根、柿のように甘い人参、通常の4倍ほど大きくて香りも味わいも濃いブロッコリー・・・、「やなもり農園」の野菜たちはすべて、効率を無視した土づくりの賜物なんです。


私は、「生命」から「食べ物」に変わる瞬間を知ることが、第一の『食育』であると考えています。子どもたちが自分で野菜を育て、収穫するだけじゃ何の意味もありません。大事なのは、小さな種から芽が出て、やがて花が咲き、ゆっくり実が膨らんで、立派に大きく育ったものを「最後にもぎとる」ことの意味。大事に育てた「生命」が「食べ物」に変わる瞬間を教えることで、食前に「(生命を)いただきます」と手を合わせる真意が初めて分かるはずです。そして、走り回って食料を調達してくれた人への感謝を込めて、食後には「ご馳走さま」の言葉がある。まずは親がこのことを知り、子どもたちに伝えていきたいですよね。
『食育』の一番の近道は、作物を「自分でつくる」ことです。そういう意味でも、私はあちこちで自家菜園を指導しています。南千里丘の新しい街でエコイク活動として実施される『菜園育成プロジェクト』もまさにそのひとつ。『食育』の基本である「いただきます」の意味を体感してもらうと同時に、土づくりから徹底した野菜を育て食すことで、食の「安心・安全・おいしさ」について正しい判断ができるようになることを目指しています。
正しい判断といえば、"新鮮野菜=おいしい"という方程式は、決して当てはまらないの知っていますか?もぎたての新鮮な状態がおいしいのは、みずみずしさと甘みをたっぷり蓄えた夏野菜だけ。逆に秋冬野菜は、収穫して時間をおいた方がおいしくなるものが多いんです。水分を蒸発させることで、野菜の甘みがいっそう強くなるんですね。白菜も大根も人参も、冷蔵庫にしばらく置いてからいただくとおいしくなりますよ。
このように、食について誤った知識がまかり通っていることも実は多いのです。食について消費者自身が正しく判断しなければならない時代において、『菜園育成プロジェクト』はさまざまなことを教えてくれるはずです。そして何よりも、自分の手でおいしい野菜を育て食す喜びを知っていただきたいと思います。


